素直じゃないあたしを温めて

「私ね、籍を入れる前に妊娠しちゃったの」


「妊……娠?」


「そう。それにね、相手の男の人に騙されてたの。
今思えばおかしいなっていうくらい、お金が必要だって言ってきて……

私、当時はその人しか見えてなくて、困ってるなら絶対に助けたいって……借金までして、その人にお金渡してたの。

それでね、妊娠したって分かってから連絡取れなくなっちゃったの……それからかな、騙されてたって分かったのは」


「そんな……」



想像していたよりも、酷い話で。

きっとあたしは、まばたきもせず幸子さんの顔を見ていたのだと思う。



「でも、せっかく一人の命が産まれようとしてるんだから、産まない訳には行かないって……一人で育てるって決めて……航太を産んだの。

航太には、騙されてたからお父さんは居ない、なんて言えないから離婚したっていう事にしてたの。

初めのうちは他の家庭との違いは父親が居ないっていうくらいで、普通に幸せだったんだけど……

懸命に働いても、やっぱり借金を全部返す事が出来なくなって……家計が苦しくなって……それでも、航太にだけは辛い思いさせたくなかったから精一杯頑張った。

でももう限界が来て……それで航太をっ……」



幸子さんは両手を握りしめながら震え、
声を押し殺しながら泣いていた。
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