レミリアの一夜物語
あまりの言葉に茫然と緋竜を見つめた2人は、すぐに何故、という疑問にたどり着いた。
「貴女の魔法が私を呼んだ。ネイト、貴女が私を呼んだのは2度目。あの時はあまりに幼く、貴女にも家族がいたからあきらめたけれど、今は貴女を迎え入れるのにふさわしい時だわ」
「どうして……私を?」
ネイトの疑問に緋竜は答えた。
「ネイト……貴女は人より、神に近い。そして貴女の緋色の魔力は緋竜の一族に祝福を与えるもの。私たちは貴女をずっと待っていたのよ」
緋竜はレシェフの肩越しにじっとネイトを見つめた。答えを待つように。
そして、優しい、慈悲深い、そしてどこか憐れむような声でネイトを呼んだ。
「おいで、ネイト」
ネイトは前に立つレシェフを見上げた。
レシェフも振り返りネイトを見た。
今度は視線を逸らされなかった。
「レシェフ……」
ネイトはレシェフの名を呼んだ。
どうしてだかわからなかった。止めてほしいのか、笑顔で見送って欲しいのか、それとも声をかけて欲しかっただけなのか……自分でも。
レシェフはただじっとネイトの瞳を見つめているようだった。
ネイトもレシェフの瞳を見ていた。頬の入れ墨よりも透明な薄紫の瞳は綺麗だったが光がなく、感情の読めないものだった。
だから、ネイトはレシェフから目を逸らした。
初めて、自分から目を逸らした。
そして、レシェフの脇を逃げるように通り抜けて、緋竜の元へと駆け寄った。
「ありがとう、今までありがとう。レシェフのこと家族みたいに思ってた。たった1年だけでも、私も見つけて、優しい声をかけてくれて、拾ってくれて、育ててくれて……嬉しかった。大好きだった……っ」
ネイトは緋竜の側で叫んだ。
でもネイトはレシェフの顔はやっぱり見れなかったから、だからレシェフがどんな表情で自分を見ているのか、最後までわからなかった。
そして、砂漠に朱い静寂が訪れた。
広い砂漠に、レシェフはラクダと共に残され夕焼けだけを見つめていた。
空を半分も覆う鮮やかな夕焼けだったが、自分の背中には紺色の空が広がっていることをレシェフは知っていた。
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