期間限定の婚約者
「瑠衣」と、背後から低い声がしで、驚いた私はビクッと肩をびくつかせた。
「なんでしょうか?」
「ベッドにこいよ」
「あ、でも洗濯物」
「あとでいいから」

 新垣さんが私の腕を掴んで、無理やり立たせると、寝室へと連れていかれた。
 有無を言わせない新垣さんの誘いは嫌いじゃない。でも、脳裏にはどうしても生で見た冬馬さんがちらついてしまう。

 私は冬馬さんに勝てない。
 ……でも、勝ちたい。










 爆睡している新垣さんの寝息を確認してから、私はベッドの布団から素足を出した。
 
 帰らなきゃ。
 外泊は、お義母さんに怒られてしまうから。
 嫉妬……なのかな。
 お義母さんも、新垣さんを好きみたいだから。

 そうだよね。格好いいもの。新垣さんは。
 お義母さんだって、オンナ。
 新垣さんの魅力に、魅入られてしまうのはわかる。

「瑠衣、帰るのか?」
 寝ているかと思っていた新垣さんが、ベッドから出ようとする私の手首をつかんだ。

「うん、もう帰らないと」
「泊まってけよ」
「終電まだ間に合うし。洗濯物は浴室に干しておいたから。新垣さんは寝ててください」
 私の手を掴んでいる新垣さんの腕を、反対側の手でそっと触れる。

 離して。帰らないといけないの、と口にはしないものの、雰囲気を体から出した。

< 21 / 26 >

この作品をシェア

pagetop