期間限定の婚約者
「帰るなら、送る」と新垣さんが、眠たげな瞼をこすりながら、体を起こそうとする。
 私は慌てて、新垣さんの胸を押した。

「だ、大丈夫です。電車があるので、一人で帰れます。新垣さんは出張から帰ってきたばかりですし、明日もお仕事があるんですから」
 疲れているんだから、無理はしてほしくない。
 ゆっくり休んでもらいたい。

「なら、泊まってけ」
「いえ、帰らないと母が……」
 嫉妬して怖いんです、と言えなくて私は口ごもった。

 私と見合いをしてから、新垣さんはどうやらお義母さんとは会ってないみたいで。
 日に日に、お義母さんからの当たりがひどくなってる、なんて新垣さんには言えない。

 じっと新垣さんが私の目を見てから、手を放してくれた。

「んじゃ、ちょっと待ってろ。すぐ着替えるから」
「本当に、大丈夫ですから。一人で帰れます。新垣さんは休んでください」
「休んでほしいと思うなら、泊まっていけ。そうじゃなきゃ、送っていく」
「そんな……母が」

 新垣さんがベッドサイドに置いたスマホを手に取ると、ピッピッピと操作し始めた。

「これでいいだろ?」と新垣さんが、スマホのライン画面を見せてきた。

『今夜は俺の一存で、瑠衣を泊まらせる。外泊を怒るなら、瑠衣じゃなく俺を責めろ』
 すでに送信済みになっており、私が画面を見ている間に、『既読』の文字が表示された。

 お義母さん、ラインに気づくの早すぎ。

 お義母さんの『既読』の速さにも驚いたと同時に、画面にうつる今までのやり取りにも目を奪われた。

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