この気持ちの向こうに
「その顔は全く知らんかったっちゅう顔やな。」

「うっ・・・」

何でか顔に出やすい性分のせいでよく心を読み取られる。

「ったく。それくらいわかっとけよ〜」

「わりぃ・・・」

顔を上げるのも恥ずかしい俺。

その時、1本の校内放送が流れた。

『平井飛鳥くん。平井飛鳥くん。今すぐ数学教師室まで来なさい。』

数学教師室?

「なんや、俺やんけ。・・・ちょっと行ってくるわ!」

「おう!じゃあ俺は校内を散歩してくる!」

「分かった!じゃあ放課後校門の前で!」

「了解!」

そう言って去っていく飛鳥の背中を見送ってから俺は中庭へと向かった。



「ひれぇーな・・・」

中庭と言ってもフサフサの芝生がふんだんに生えた地面に森くらいの量の木が生えている。

「迷子になるかも・・・」

草を掻き分け歩いていると、誰かがベンチに寝ている姿が見えた。

・・・誰だ?

ゆっくり近づいていくとそいつはあの藤堂功基だった。

「藤堂?」

ぐっすり寝ているのか全く俺に気づく気配もない。

それどころか少しいびきすらかいている。

「ったく・・・風邪ひくぞ、藤堂!」

そう言いながら藤堂の肩をゆすった瞬間。

”ガタンッ”

ベンチがひっくり返り俺の上に藤堂が覆いかぶさるような状態になった。

「おいコラ、藤堂!・・・起きろって!」

そう思って藤堂の体を持ち上げようとしたとき。

俺の手は寝ていたはずの藤堂の手につかまれ、身動きが出来ない。

「ちょっ!・・・」

抜けようと体を動かしてもビクともしない。

「とうど・・・」

「っるせーな・・・」

「は?」

「少しは黙ってろ。」

・・・え?何。

この状態で黙ってろって言うのか?

いや、無理だろ。

「だったらどけよ!」

「・・・」

急に黙り込んだ藤堂。
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