この気持ちの向こうに

「何だよ。」

「・・・お前、名前は?」

「は?」

「名前はなんだって言ってんだよ。」

真剣な眼差しで問いかけてくる藤堂。

吸い込まれていくような瞳。

「・・・宇佐美・・藍・・・」

「藍か。」

「そうだけど。」

「ふ〜ん。」

納得したように頷く藤堂。

さっきまでの怖いオーラは消えていた。

「ってか早くどけよっ!」

俺がジタバタしていると藤堂は俺の上からいなくなるとすぐに俺を抱え歩き出した。

世間で言う『お姫様抱っこ』というやつで。

「ちょっ!降ろせって!!」

しかし藤堂は俺の言葉を全て無視し、淡々と歩いていく。

奥へ進んでいくと1つの小屋が見えた。

「・・・小屋?」

すると藤堂はその小屋のドアを開け、その中に俺を投げ込んだ。

「いってーなっ!!」

”ガチャッ”

俺の罵声に目もくれず鍵を閉めた藤堂。

俺に1歩1歩近づくたびに服を緩めている。

俺は予想もしない行動にただ後ずさりしか出来ない。

「・・・なっ、なんだよ・・・」

後ろが壁になるまで追いやられた俺はただ無言で近づいてくる藤堂を見つめていた。

・・・なんかヤバイ空気・・・

俺がうつむいているとやっと藤堂が話し始めた。

「なぁ藍。」

勝手に呼び捨てにされている俺。

「・・・なっ・・なに?・・」

上半身がすでに裸の藤堂は俺が油断した隙に俺の肩を押した。

「うおっつ!」

”ドンッ”

「いってぇ〜・・・」

床に倒された俺の上に覆いかぶさって密着する藤堂。

「なにすんだ・・・」

目を開けた瞬間に藤堂は俺の前髪を掻き分け唇にキスをしてきた。

「んっ!!・・・」

・・・これってディープキス?!

俺のファーストキスを・・・

俺が手で拒んでもなおキスをやめない藤堂。
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