魔王更生物語 -させてみせます、その男!-
その場に、氷よりも冷たい空気が漂った気がした。
だけどそれは一瞬だけで、神城は楽しそうに笑い出すと、やってみろ、それだけ言い放ち私の腕を掴んで引き寄せた。
「協力すんなら……証を残す」
「え?証って………ぎゃああぁああ!」
あろうことか神城は、私の制服のリボンをするりと抜き取ると、二つほどボタンを外して見えてきた鎖骨の当たりに唇を寄せた。
じゅ、と強く吸われて、そこで私はハッとして叫ぶ。あまりにも早業すぎて見えなかった……。
私にどつかれる前に避難した神城は、苦そうな顔で唇をこする。
「うげ」
「うっわ!失礼!ねぇそれすっごく失礼!!」
「るせぇな……。貧乳に興味はねぇよ」
「最ッ低!!失礼な上に最ッッ低!!何よ!乙女のハート傷つけて何が"うげ"よ!こっちがそれ言いたいわ。うわーんユイちゃあぁあああん!」
後ろに控えていたユイちゃんに飛びつくと、よしよしと頭を撫でてくれた。しかし、あははー、と楽しそうにユイちゃんは笑ってるからきっと私の気持ちを知らないに違いない。くそぅ、魔王め!
「こっ、こうなったら全力で更生させて、あの時はすみませんでした時雨さま、だなんて言わせて見せるからっ!」
「はははっ、その日が来るといいなー」
「笑い事じゃないー!」
「よし、ユイ、トキ、帰るぞ」
「「承知いたしました」」
「あと貧乳」
「遠野!遠野時雨です!あと貧乳はステータスだ!」
「頭は正常か?時雨、そのマークは役目を果たすまで消えることはないからなー」
「え?」
私がふと視線を落とすと、鎖骨の部分に小さな薔薇のようなマーク……アザ?そんなものが出来ていた。
ひく、と頬をひきつらせる。
触ってみても違和感なんてなく、最初からそこにあるかのようにプリントされた薔薇は、悔しきかな、とても綺麗で美しかった。
「くっ…………。やって、やってやるぞ…ふふふ…」
こうして、私の魔王更生のための学園生活が始まったのです。あれ、何か違う。