クラスメイト

五階建てのアパートの横を抜けると、遮られていた日が差し、目を細めた。そこから五十メートル程進むと左側には、何度か雑誌に取り上げられた事があるラーメン屋、麺屋武吉がある。

そこから道なりに進んで行くと国道にぶつかり、車通りの激しいそこを横断して右に進むと、左側に学校が見えてくる。


運良く信号に邪魔される事なく国道を渡った修は、歩を止める事なく伊奈沢高校へと到着した。


久しぶりに歩いたせいか、季節が夏に近づいているせいか、学校に着いた頃には背中に汗が滲んでいた。


校門を潜ると地面がアスファルトからレンガでできた道に変わる。レンガ道は校門から校舎へと一直線に続いており、そこを歩く沢山の生徒達が吸い込まれるように校舎へと入って行く。

その光景はなんだが器械的で、彼等が同じ人ではないように思えた事があった。ただその中には自分もいるという事に気付き、どうしよもなくやるせない気持ちになったのを覚えている。


校門を潜ると違和感が大きくなった。

花壇と木々に挟まれたレンガ道を歩いて行く学生達。なんだかいつもより他人行儀に感じる。勿論彼等は赤の他人だ。顔を見たことがあるくらいで話した事はない。

上手くは説明できないが、毎日学校へ通っていた彼等と自身の時間に擦れのようなものが、自分だけ少し前の時間に取り残されている。そんな感じがした。



そよぐ風が運んでくる、花の匂いと草木の匂いと、それと国道を通る車のガスの匂い。それを感じながら修はレンガ道を進んでいく。聞こえてくるのは生徒達の沢山の雑踏と話し声。時折車の通る音も聞こえる。

百メートル程あるレンガ道を七十メートル程進んだ所だろうか。修の目はある一点に釘付けになった。



それは修の約十メートル程先を歩いている女子生徒だった。見たことのない生徒だ。後ろ姿しか見えないが何故かそう確信していた。

身長は百六十センチくらいだろうか、女子にしては少し大きい方な気がする。ブレザーを着ているがそれでも分かる程に線が細く、白い足が動く度にスカートが揺れる。何より修の目を惹いたのは背中あたりまでに伸びた真っ黒な髪だった。


彼女の動きに合わせて艶やかな髪は揺れ、風がそよぐと波をつくる。その度彼女の香りが届くような気がした。




どれ程の時間彼女を見ていたのだろうか。一瞬の事ような、とても長い時間だったような。

ともかく自分が立ち止まってしまっているという事に気がついたのは、校舎の中へ入って行った彼女の姿が見えなくなってからだった。




< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop