泡沫眼角-ウタカタメカド-
素早い身のこなしで走り出すと、言乃も続く。
大通りを渡り、銀行や電気屋の前を過ぎると、地下に降りる階段がある。
やや薄暗いそこへ降りて行こうとして、高橋は一旦言乃を振り向いた。
「屋代さんはここにいて! でもって、誰も中に入れないように!」
確実に、良くないことが起きているようだ。
言乃はしっかりと頷き、高橋を見送った。
あの嫌な予感が、またあふれでる。
まさか――
第二の事件が、第二の被害者が出てしまったのか――
だったら、あの人の痕跡が残っているかもしれない――。
――ごめんなさい、高橋さん!
必死に心で頭を下げて、言乃は階段を駆け降りた。
降りるうちに、ムッと濃い臭いが充満してくる。
嫌な想像が頭を巡るそばで、重いはずの駐車場のドアが半開きになっているのを見つけた。
言わずもがな、臭いは開いた先の駐車場から漂ってくる。
本当なら、先にあるであろう景色は見たくはない。
しかし、彼の――ファントムの手がかりを見つけるためには、警察の手が入る前が好ましい。
――行きます!
覚悟を決めて開いた扉の先。
太い柱の奥の白い車のそばまで音を忍ばせて行く。
そして、目に飛び込んだ惨状。
崩れた人よりも、その横の壁を見つめる言乃の口から言葉は、
「……やっぱり」
ただ、一言だった。