泡沫眼角-ウタカタメカド-
声は聞こえないにしても、足音と気配に気付いた高橋は後ろにたたずむ言乃を見て、言葉を失った。
なんで来ちゃったの
しかし言乃は高橋を見ていない。
壁を伝って座り込んだようで、縦に血の跡が掠れてついている。
座り込んでいる彼はうつむいているが、首もとから腹の辺りまで吐き出された血がべったりとシャツに染みていた。
――喉が……潰されて……
しかし、言乃の目に止まるのは体ではなく、彼の右手の周り。
『 二人目 終わり
ファントム 』
雑な太い字で書かれた血文字。
人差し指と中指が、またべったりと汚れている。
唇が白くなるほど堅く結び、手がわなわなと震える。
足からは今にも力が抜けそうなのを、必死に踏ん張る言乃。
「……屋代さん、…」
心配そうな目を向けて、高橋はそっと言乃の肩を持って出口に促した。
「さあ、行こう…」
素直に出口へ向かおうと、ようやく動き出す。
何かに気付いた高橋が、あ、と小さく声を上げた。
カタンッ!
「――ッ!!」
扉が閉まる直前に見えたあの影。
考えるより先に走り出していた。
高橋が驚き呼ぶ声も無視して追いかけた。