泡沫眼角-ウタカタメカド-
階段を上がったところで朋恵とぶつかりそうになって、済まないが会釈で先を急ぐ。
相手は大通りから角を曲がり、路地に入り込んだ。
すぐさま言乃も続くが、ゴタゴタとした狭い道に足をとられ上手く進めない。
――追い付けない、
咄嗟に感じて奥に消えてしまいそうな彼に向かって叫んだ。
「待って…、待って下さい!!」
ビクリ、肩が大きく跳ね、それは足を止めた。
「……待って下さい、」
ようやく追い付いて、言乃は壁に手をついて息を整える。
だが、呼吸は落ち着いたところで、心臓は跳ねたまま。
「どうして、逃げるんですか?」
声が、震える。
どうしてだろう。
あんなに仲良く喋った相手なのに。
彼は振り向かない。
「どうして何も言ってくれないんですか?」
彼は動かない。
焦れったくなって、言乃は一歩相手に踏み出そうと足を上げて、
「来るな」
冷たい声に、体が、思考が止まった。
「…貴方は、誰です?」
よく知ってる相手のはずなのに。
こんな質問、おかしいじゃないですか。
それなのに、
どうしてこうも、
彼のことがわからない