泡沫眼角-ウタカタメカド-
権力に弱いトシオである。
客である言乃と恵、そして一番の存在である奏にお茶と菓子の羊羹が置かれた。
「禅在との話…だったな」
奏の言葉で、また空気が張り詰めた。
お茶を一口すすり、静かに切り出した。
「禅在とうちはな、大元の流れを同じとする兄弟みたいな関係なんだ。図だけを見ればな」
実際は、そんな簡単なものではない。
「隣り合うシマ、似たり寄ったりの事業。兄弟ってぇ間柄はな、どんなことでも張り合い、競争したくなるのが常」
競争は、世間の水面下で激化していく。
互いに見かければ喧嘩をし、リンチをし、遂には水面下だけでは収まらなくなった。
「そうして、抗争にまで陥ったのさ」
「……」
もちろん、ヤンキーの抗争とはレベルが違う。
けが人も多く、敵対する気持ちはさらに膨れ上がった。
関係の修復などもはや不可能
「そう悟った組員の一部が奇襲をかけた。そのうち一人は…帰って来なかった」
「それは、亡くなったという意味ですか?」
言乃の携帯など見るまでもない。
しかし奏は、力なく首を振った。
「いいや…そのまま行方不明なんだ。八年間、な」
行方不明
その言葉が炯斗と重なって、二人に重い影を落とす。
また暗い沈黙。
しかし―それをいとも容易く壊す人間がここに一人。
「ねえねえ、ことのん。わざわざそんな風に通訳してもらうなんて面倒じゃないかい? 僕があげたタブレット持ってる?」
いつの間にかちゃっかり言乃の隣に居座ったトシオ。
突然の全く空気が読めない発言に、奏は大きくため息。
「なんか気が削がれた」
と、好物の羊羹を口に放った。