泡沫眼角-ウタカタメカド-
容疑者は
* * *
呼び出し音は鳴れども、声はない。
「出ませんか?」
高橋の言葉に力なく頷いて、電話を閉じた。
「ええ…どうしたのかしら。何の断りもなく帰るような子たちじゃないと思うんだけど」
納得していない様子で首を傾げる朋恵。
その頃、言乃と恵が比津次会の人間の車に乗せられていることなど知る由もなく。
一先ずは携帯をポケットに押し込み、地下駐車場に戻った。
地下では未だに現場検証が行われている。
鑑識の見せ場であり、刑事の出る幕ではないのだが、見てればわかる。
――あんまりうまくいってないみたいね
残されたファントムの文字。
言乃に見せられたタブレット画面を思い出さずにはいられない。
――やられたわ
まさかの演説を囮にした地下での暗殺。
目を候補者ばかりに向けていた自分のミスだ。
「先輩、爪噛んでるとなくなっちゃいますよ」
「あ…」
慌てて親指を隠すと高橋はクスリと笑う。
まだ青い顔してる癖によく言うわよ
「何か言いました?」
「何でもないわよ!」
朋恵はスタスタと行ってしまうのを高橋は慌てて追いかけた。