泡沫眼角-ウタカタメカド-
日奈山、拉致、比津次会、禅在との抗争、香田の行方不明、“チャカ”の紛失
どうしてこんな話を一般人から、しかもヤクザとは縁遠い子から聞かねばならないのだろう。
朋恵は頭の痛くなる思いだった。
「……よくもまぁ、そんな話を生きて聞いてこれたわね」
『え?』
すっとんきょうな声が聞こえる。
彼女は本当にわかっていないのだろうか?
「“これをサツに流したら一体どうなるか、わかってるよな?”」
『え、えぇぇぇ!?』
ちょっとドスを効かせてみただけなのに。
そんな、だって、何にもしてないです、とか立て続けにあわてふためく恵。
朋恵は思わずクスッと笑った。
「冗談よ、何もないってことはずいぶんいい扱いをされたわね?」
『はぁ…あの、炯斗の友達だったからだと思います』
また日奈山か。あいつは本当にただの一般人なのだろうか?
『あの…朋恵さん?』
「なに?」
ようやく落ち着いてきたのか、恵のテンションが普通だ。
『“チャカ”って何ですか?』
「隠語でね、銃のことよ」
恵の息を呑むのが聞こえる。
朋恵はぼんやりと呟く。
「でも…それも妙な話よね。組長代理の香田の行方がわからない。銃の行方もわからない。
なのに殺されているのも比津次会。
さらに殺害方法に銃は使われていないだなんて……」