泡沫眼角-ウタカタメカド-
次の日もそこにいるというので、言乃は公園を訪れてみた。
ベンチにいない。
もう塗り立ての貼り紙はなく、早速だれかが汚した泥が端っこについているだけ。
『……おい』
背後から、不機嫌さ満点の低い声。
お腹の底から冷える感覚に思わずピシリと固まってしまう。
『来るにしちゃあ遅すぎねーか?』
油の注していない機械みたいな動きで振り向くと――
ああ、もうダメだ。
そう思わせるような般若が一人。
しかしそんな顔で来られても――
「来るとは言いましたが、時間は指定していなかったはずです」
『普通同じ時間だと思うだろが!』
「それは勝手な思い込みです!」
――彼女の口は減らない。
別に、怒らせたって大丈夫。
その確信が、こうした会話を可能にさせた。
たとえ何かあったとしても、彼らには絶対に抗えない力が、自分にはある。
言乃の思いなど露知らず、彼はガックリと肩を落とした。
『あー、ハイハイ。いいですよー。今時のガキは屁理屈がお上手で素晴らしいですねー』
カチン。