泡沫眼角-ウタカタメカド-
お互いの呼び名に慣れてきたある時だった。
『……はぁ』
珍しくファントムのため息。
あまりのことに、言乃は目を丸くした。
「今日は槍でも降りますかね?」
『お前、失礼過ぎるぞこの年上に向かって!』
いつものように声を荒げるものの、すぐに地面に視線を戻してため息。
おかしい。
これは確実におかしい。
「ファントムさん、本当にどうしたんですか?」
言乃はちょっと真面目になって、ベンチに乗る身を彼に向ける。
ファントムは、いつものように腕を背もたれに引っかけて曇らせたまま。
『オレがこっちに戻ってきたら、もう三年経ってたんだ。家族はボロボロ。
会わせる顔も会う方法もない』
「……」
人が死んで霊となって戻ってくる時、時間が経っていることは珍しくはない。
「というより、皆さんすぐに戻って来られないようです。
早くて1ヶ月。どうあろうとも、死後数日で戻ってくるのは不可能みたいです」
『……そうか』
故に、残された家族に問題があったりした場合に悩む霊は多い。
ファントムは何処か遠い瞳をしている。
先に見つめているのは一体……?