泡沫眼角-ウタカタメカド-
* * *
帰り道。
恵は電車に揺られていた。
話を聞いた直後は、なんとも言いがたい思いだった。
『そんなことが、あったんだ…』
【はい】
なんと言っていいのやらわからず。
恵はカップをギュッと握って、言乃を見つめる。
『話を聞く限り、ファントムさんって悪い人じゃなさそうなんだけど…。本当にこの事件の犯人かなぁ?』
【しかし、事件に大きく関わっていることは確かなようです】
事実、言乃とファントムは昨日会っている。
炯斗を通じ、不穏な言葉を残されて。
だが、過去のファントムの像と現在のそれは大きく異なる。
『別人だってことは?』
言乃は首を振るだけ。
乗り出した身を引いてため息をつけば、万事休す。
常人の自分にはわからない何かが言乃に確信を告げているらしい。
となれば、恵には諦めることしか出来なかった。
暮れに染まっていく空を窓越しに見上げる。
沈み行く陽の光にあてられ、雲が強い影を落としこんでいた。
――こんな気分だと、嫌な思い出が甦る。
今のことのんはあの時の炯斗にそっくりだなぁ…