泡沫眼角-ウタカタメカド-
まさか助けだとは。
突如現れた大柄な男の後に続いて道を曲がる炯斗。
「待ちなさい!」
お巡りさんはまだついてくる。
――っ、しつこい!
追跡を撒くために次々に角を曲がっていく男。
後ろに続く炯斗も曲がると、突然物陰に押し込まれた。
「静かに! しばらくここでしのぎます」
お巡りさんからは死角。
完全に炯斗たちを凶悪犯罪者とみなしている彼は冷静だった。
汗をかいていても、状況を不利とみて深追いはしてこない。
慎重に様子を見て、男は炯斗を放す。
炯斗はそこで初めて男が誰なのか気付いた。
「あれ? 香田さん?」
あまり感情を表さない、荒削りの木材を思わせる男。
比津次会の組長代理であるはずの香田定行(コウダ サダユキ)が目の前に立っていた。
香田はぐっと眉根を寄せて炯斗をじっくり観察する。
「そんなに見ないでくれないッスか? ちょっと疑うッスよ?」
手を自分の頬に持ってきてオネエなポーズをすれば、
「その様な趣味はない」
ピシャリとした言葉。
いや、わかってたけどさー…
「その様だと、やはり炯斗か」
「え?」
しかし香田は炯斗に背を向けると一言。
「ついてきなさい」