泡沫眼角-ウタカタメカド-

比津次会本部――つまり奏の家によく遊びに行っていた炯斗。
わずかな事情は奏から聞いており、相手の地位の高さはよくわかっているつもりだ。

組長代理。
逆らうのは得策ではない。


おまけに助けてくれたみたいだしな。


大人しくついていくと、先ほど目覚めたアパートに入っていく。


「ここ、香田さんちだったのか…」


じゃあ、二度も助けてもらったのか…


部屋を荒らしたことに今更ながらの罪悪感が押し寄せた。


――でもま、いっか


部屋に入って座布団に座ったとたん、思い出したように腹の虫が大きく鳴いた。

香田はピタリと炯斗を見据え、それから視線が僅かに下に向き――ついにはため息をついた。


「あ、ははは……すんません。耐えきれなくって」

「だいたいの事情はわかった。だがもう少し部屋にいてもらいたかった」

――……

うなだれることしか出来ない。

「準備が出来たらここを出る。それまでもう少し待って欲しい」


言葉はこうだが、視線では

「我慢してもらえるか?」

と聞いていた。


気を遣ってくれているのがわかって、炯斗は明るく返事をした。



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