泡沫眼角-ウタカタメカド-

そうか、と言ってから香田は大きくため息をついた。


ぶっきらぼうで分かりにくい香田だが、吐き出された息に深い思いがあるのが見てとれる。
一度警戒するように周りを見渡して、ゆっくりと口を開いた。


「その数日後だ。吉野が殺られた」

「え!? 吉野って、あの吉野兄ちゃんッスか?」

「…そうだ」


――そんな…!!


奏の家に遊びに行くと、よく奏と二人して相手をしてもらった兄貴分だった吉野。

奏より年が上の人間で一番仲良くしてくれた。


『よし、鬼ごっこなら俺が鬼やりますよ』

『えー、吉野はやだ。すぐ捕まえるくせに捕まえらんねーし』

『へへー!! 吉野兄ちゃん嫌われてやんの!』

『……若、そんなぁ』


よく一緒に遊んでもらった記憶が次々に溢れて、涙が零れそうになる。

吉野が一度だけ、意味深なことを言ったことがあった。

事あるごとに“組に入れ”とよく言ってきた吉野。

そんなつもりはない炯斗は毎回断り、お互いにもはやパターン化した冗談だったのに、この日は何処か様子が違った。



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