泡沫眼角-ウタカタメカド-
『炯斗、やっぱり入る気にはならないか?』
炯斗が高校2年の秋頃だった。
奏の家の門前。
珍しく吉野に送っていくと言われてこの話だ。
『しつこいぞー、ないっていつも言ってるだろ?』
『…そうか。入ってくれたら楽しかっただろうになぁ』
『新手の誘い?』
炯斗はいつものように笑い飛ばしてそっぽを向いた。
実はこの話題は苦手だ。
いつもはおちゃらけて避けてきたのだが今日はそういきそうもない。
『お前さ、似てるんだよ。しばらく前にどっか行っちまった奴に』
『へー…』
どうにか話題を逸らす材料がないかと炯斗は明後日の方向を見続ける。
『…顔じゃねぇぞ?』
『あ、そう』
一拍おいて、こっちを向き直して、もう一度。
『顔じゃないからな?』
『もう聞いたわっ!!』
『何かな…一緒にいる空気がさ。似てるんだ』
『あー、今の件無視か』
その言葉すらもスルーして吉野は夕暮れ空を見上げる。
『お前はどことなくアイツを感じさせるんだ。だから…』
『俺をこうもずっと誘ったって訳か』
視線を炯斗に戻し、僅かに陰る微笑み。
悪いことをしてるのは自分みたいな気がして居心地が悪い。
吉野はフッと力を抜いた。
『もう言わねぇよ。これで最後にする』
『とか言って何かあったら絶対に言うよな』
無責任に肩をすくめ、二人は笑う。
『若とは仲良くしとけよ』
『あったり前だ!』