泡沫眼角-ウタカタメカド-
「なっ!」
「サツだ!」
「何のようだ!」
ビルの一角のさして広くもないオフィスが一気にざわめいた。
広くもないのに後から後からいかつい様相の人出てきて、川井は悲鳴を上げそうになるのを圧し殺す。
反対に狸翠は周りの反応を楽しむかのよう。
「おうおう、老いぼれが一人来た程度で騒ぐなよ」
「何で警部はそうなんですか…」
後ろで絶望する川井宗悟。
あっという間に二人は様々な色のワイシャツをスーツの下に着込む、かたぎだとはどうしても思えない男たちに囲まれてしまった。
ああ…だから警部はもう…
「てめえ何しに来やがった! サツは薄っぺらい紙がねぇと家捜し出来ねぇはずだろうが!」
サングラスをかけたいかにもな男が叫ぶ。
やめてくれと思う川井をよそに変わらず狸翠はニヤリと笑うばかり。
「誰もここをガサ入れするだなんて言ってないだろうが。お前らの一番偉いやつと話がしたいと言ってるだけだ」
「それが人にものを頼む態度か」
「ちゃんと頼む前に取り囲んだのは誰だかな」
ピキリ、
全員の青筋が浮かぶ音が川井には聞こえた。
聞き間違いだといいのだが、そこに浮かぶ血管は見間違えようもない。
「警部、挑発するのはやめてくださいよ!」
川井が囁くが、
「大丈夫だ。揚げ足の取り方は朋恵と生意気な黒い探偵で鍛えてある」
そういう問題じゃありませんよ!
という叫びはどこにも届かず消える。