泡沫眼角-ウタカタメカド-
「騒ぐな、野郎ども」
人垣の奥からダミ声が響くと、一斉に全員が振り向く。
恐る恐る川井も覗いてみるが──人垣で見えない。
「さて、行くぞ」
「え?」
狸翠が人垣に向かって歩を進めると、パカりと彼らは道を開ける。
慌てて川井もついていくと、奥にふんぞり返って座る人が見えた。
随分小さい。
が、同じように小さい目は猛禽類のように鋭く、川井の帰りたい気持ちが一瞬で倍増した。
「負けるな。態度に出したら舐められる」
「警部…」
残念ながらそんなことを言われても勇気付けられもしない。
せめて背筋を伸ばして真顔を心がけた。
「警視庁の冬沢だ」
「同じく川井です」
二人で警察手帳を示すと、頭と見られる男は座るようにあごをしゃくった。
「俺の自己紹介をする必要はあるか?」
「こいつが知らないようなんでな。頼みますよ」
男は組んでいた足を解き、川井をまっすぐに見つめる。
「禅在興業の社長、天城(アマギ)だ。以後見知りおきを。若造」
「は、はいっ!」
──怖い
小柄な外見とは不釣合いな眼光のせいで威圧感は他の人間と比べ物にならない。
それ以外は髪が灰色に見える程度に白髪が混ざる、やや太めの50代後半といったところだ。
常人じゃないだろうことは雰囲気でバリバリですが。
川井からしたら、そんな威圧を受けてなお、今まで見たことないほどの穏やかな顔で笑っている狸翠の方が異常人だ。
娘の前じゃ形無しなのに。