泡沫眼角-ウタカタメカド-
天城は、目を細める。
強い、怒りがこもっている。
「奴が捌いたのは初めてじゃない。すでに、どっかで十分に実力をつけてから送り込まれた。
つまり、金子の正体はウチでもヒツジでもねえ。暗殺屋の黒蜜だ」
「!!」
狸翠は愕然としていた。
川井はどちらかというとそのことに驚いていた。
高橋が始めに黒蜜の話が出てもそんなに取り乱さなかったのに。
この結末だって、ある程度予想できたのに…。
だが、川井の意に反して天城はさらに気分をよくして頬を紅潮させた。
「そんな奴、ウチに残しておく価値なんぞどこにもない。だからスパイだと理由をかこつけてヒツジにやったのさ。
後は煮るなり焼くなり、好きに出来る。ウチとヒツジのことくらい、とっくに知ってるんだろ?」
二人は曖昧に頷いた。
つまり──ここに新たな被疑者が浮かび上がったというわけだ。
「ま、俺たちが手を下す前に死んじまったがな」
そういうと小さい体を大きく反り返らせて、周りとともに笑い出した。
気味が悪い。
川井は嫌悪感を隠そうともしなかった。
人の命を軽々しく扱い、あざ笑う血も涙もない集団。
彼らに映画やドラマのような仁義はあるのか。
「ほかに、何か知ってることはないか?」
「あ?」
狸翠はいつもの調子を崩さず聞いた。
「黒蜜でも何でもいい。他に知っていることは?」
「ああ…ひとつだけあるぜ?」
「なんだ」
天城はまた前かがみに構え、声を落として言った。
「実はな、一つだけ懸念していることがなくもない」
にまぁ、と笑う男に川井は舌打ちをしたい気分になった。
焦らすのが得意なようだが、いい加減にしてもらいたい。
早く帰りたいんだ。