泡沫眼角-ウタカタメカド-
事件の全容が把握出来ずに散々唸った後、狸翠と川井は禅在を去って行った。
二人の警察官が去った後、天城は電話をとってどこかに掛けた。
相手はすぐに出る。
「よう、俺だ。さっきサツが来たぜ」
『…そうか』
相手の声は若い。
天城の話にさして関心もなさそうな声色だ。
「面白くなってきたもんでな、いろいろと話してやったよ」
わざと含みのある言い方をすると、受話器の向こうで相手が顔をしかめるのがわかった。
『いろいろ?』
「ああ。金子の話が主だったが他も少しな」
『お前、余計なことは話して──』
「ねえよ。それに、誰に対してお前なんて使ってやがる!」
力の上下もわからん若造が。
内心で毒づきながらも相手の反応を楽しみしながら待つ。
『どうだった?』
「どうもこうも。とんだ狸だ。熱心に話を聞きにきてるかと思いきや次はそうでもねえ」
『わかりやすいな』
「馬鹿が。それが向こうの狙いだ。腹ん中何考えてるか全くわかりゃしねえ」
『…そうか。気をつけるとしよう』
それだけ言うと、相手は一方的に電話を切った。
切れた音だけが響いて、天城は乱暴に受話器を叩き付けた。
「チッ! いけすかねえ野郎だ」
「お頭…」
タバコをくわえ、火をつけさせる。
どさりと椅子に体を預け、天城は体を震わせ、不敵に笑った。
「案ずるな。どうなろうと野郎の好きにさせるつもりはねえ。最後に笑うのは…ウチだ」
煙を吐き出し、肩を震わせて笑う。
小刻みなそれはだんだんと大きくなり、やがてオフィス全体に響き渡っていった。