泡沫眼角-ウタカタメカド-

「あちゃあ…乗り遅れた」


後ろからの声に振り向くと広い額に手をやってうなだれる高橋。
川井はなんだか大いに同情の意が沸いて、涙まで湧いて、高橋の肩に手をやる。


「お前も大変だな…」

「川井さん…!」

涙を流しあう男二人。
ここに新たな(冬沢被害者の)絆が生まれた。
ちょうどそのとき、親子にも決着がついた。

「高橋! 買出しご苦労さま。今空いてる部屋はある?」


そんなこと言われても帰ってきてばかりで知らないのだが。
しかし、必死に作った笑顔でドスの聞いた声を出されたら──

あれ、幻聴かな。吹雪の音がする気がするよ

「取調べ室が一つ空いてたはずですうっ!」


本当はどうか知らない。
身の危険を感じたから、言っただけです。
どこか取調べやってたらごめんなさい。


高橋の周りだけ雪が積もって凍えているのを川井は確かに見た。
しかし目を擦ってもう一度見ると、消えている。

「ありがと。おやつのついでにコーヒーもそっち持っていって」

「は、はい!」



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