泡沫眼角-ウタカタメカド-
フン、大きく鼻を鳴らして椅子に座ると朋恵は長い足を組む。

「で? 何、他には?」

「お前、なんだその態度は!」

一人座ると一人立つ。
すでに不機嫌な朋恵は冷たい視線で川井を見上げた。

前例よろしく固まりそうだったが川井はなんとかぐっと堪えて、


「お前な! 家族だがなんだか関係ないぞ! 上司には敬意を払え! 一般常識だろ!」


よし! 言い切ったぞ!
朋恵を睨みながら、内心ガッツポーズの川井。
しかし、朋恵の顔色は変わらない。

むしろ川井の耳にはビュウ…と嫌な音が、少しずつ……

「少しはマシなことを言うようになったけど、だから何?」

「だ、だだからなっ?」


思わぬ返答に川井は目をひん向く。


「いや、もうやめましょう!? ね? 話が進みませんて!」


慌てて高橋が間に入り、半分凍りかけた川井を無理やり席に押し付けた。
一体何回このやりとりを止めればいいんだろう、僕……


他にいないとはいえ、止め役を買って出てしまった自分。
とてつもない後悔の念が沸き上がる。


「言ってても始まりません。続きをお願いします!」


僕がしっかりしなければ。

高橋は、顔を上げてメモを構えなおした。


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