泡沫眼角-ウタカタメカド-
「見回りに行ってる奴らが現場に行くだろう。俺たちはここにいよう」
『こちら240、△△町から急行!』
狸翠のいう通り、少し様子を見ると続々と警察が向かっていることを示す報告が入る。
落ち着きを取り戻し、椅子に腰を戻そうとした時だ。
『各所に通達! 市内◇◆町、選挙事務所にて発砲があったとの通報! 直ちに現場へ急行せよ! 繰り返す――』
「……なんなのよ、一体…」
「…マズイですよ…」
見ると、高橋が震える手でメモを見つめていた。
目は開かれ、顔が青い。
次々と現場へ向かう放送が入る中で、静まるこの部屋。
「どうした?」
「今放送された2ヶ所は、今回の市長選挙のうち二人の候補者の事務所…。
禅在が支援する坂本と、政治家綾門が推薦する黒井の事務所です!」
「「なんだって!?」」
三人は慌てて高橋の手帳を覗き込むと、びっしり書き込まれた中に――確かに書いてあった。
押し黙る中、川井が重い口を開く。
「……もし、これが比津次の仕業なら…」
これは確実に、他の候補者への妨害行為となる。
そうなれば、捜査方針は比津次会をただの被害者とみなす訳にはいかなくなる。
「…どうやら、皮肉にも私達の捜査が証明されたようね」
狸翠が振り向いて見たものは、まさに勝ち誇った笑みを浮かべた朋恵だった。