泡沫眼角-ウタカタメカド-
高橋は先に建物の中の人間に聞き込みをしていた。


「では、顔は見ていないと。………はい、ありがとうございました」

「高橋!」

「先輩、凶器はどうやら銃みたいです。目撃証言がありました」

近付いてくる彼女に報告すると、朋恵は顔をしかめて髪をかき揚げた。


「…そうみたいね」

「救急車で搬送されたのは、綾門の秘書の谷だそうです。目の前のビルから男が銃を向けていたらしいです」

「後で搬送先の病院聞きましょう。んで色々聞くわよ」


他の刑事が聞き込みして出る幕はない。
縄張り意識と、個人意識の高い刑事たちが容易に情報をくれる訳はない。
さらにいえば、聞かれたら答えるつもりもない。


ここは、後の会議での報告を待った方が得策か。

途方にくれた高橋が振り向くと、朋恵が携帯電話を構えたまま固まっていた。


「先輩? どうしたんです?」

「………」


口はへの字、眉間にシワ、視線は厳しく。
周囲にはっきりと暗いオーラが滲んでいる。

「……連絡するって言っちゃった…」

「はい?」

「よく考えたら…」


高橋は分からず首を傾げた。

先輩、失礼します!


思いきって、朋恵の手の中の携帯電話を覗き込んでみた。


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