泡沫眼角-ウタカタメカド-
「香田さんが、一体何か?」
「いえ、特には。ただここ数日行方がわからなくなっているというので」
安心させるように笑みを浮かべて何もないですよアピール。
組織の者だと伝えて、いろいろと詮索されても厄介だ。
ここは彼女の香田に対するイメージを崩さないように。
「あらあ…そうなの…。どうしたのかしら、こないだ随分慌てて出て行ったもんだからどうしたのかと気になってたのよ」
「慌てて?」
大家のおばさんは口元に手をあてて、声を潜める。
「そうなのよ。買い物袋提げて帰ってきたと思ったら大急ぎで出て行ってね。それから金髪の男の子連れて車でまた出かけて行ったの」
朋恵はその情報を脳内に留めた。
まだ高橋が来ないのが痛いところだ。
「それからは?」
「何にも。音沙汰なしよ」
警察の対応を見越してのことか。
内心で舌打ちをついた。
逃げる側としての対応が早い。
香田は追う側のことをよく考えて行動している。
──こっち側から追い詰めるのはちょっと厳しい、かしらね
そうなれば、後は一か八か。
朋恵は声を潜め、大家に囁くように言った。
「すみませんが、香田さんのお部屋を見せていただくことは出来ますか?」
「ええ。…まあ、プライバシーの侵害なんてものになっちゃいますけど、平気でしょ?」
朋恵は、とびっきりの笑顔で頷く。
「はい。部屋を荒らすようなことはしませんから」