泡沫眼角-ウタカタメカド-
「ん? 何かしら」
朋恵の手が止まる。
高橋が振り向いた時に出されたのは、白い大きめの書類だった。
「これ、宛名しかない。差出人の名前が書かれていないわ」
言うや否や朋恵の手袋をした手が中身を探っていく。
中からA4の紙が数枚と、写真。
その中に、吉野と奏のものも。
「…これ、全部比津次会の幹部…いや、古株の人間のデータじゃない!」
「な…!?」
高橋は作業を止めて朋恵の手元を慌て覗く。
すると読み終わった一部を渡してくれた。
誕生日、役職、担当の仕事から好き嫌いまで書いてある。
「なんなんですか、これ?」
「私が聞きたいわよ。何よ、“吉野は名前のコンプレックスから牛丼は好まない”って…全国の吉野さんと牛丼屋さんに謝りなさいよ」
朋恵はイライラと髪をかき揚げ、さらに眉間にシワを寄せていく。
雷が落ちる前に離れようとしかけた高橋は、封筒に手を伸ばした。
「先輩、まだ何かありますよ。…手書き……香田に宛てた手紙ですね」