泡沫眼角-ウタカタメカド-
深窓の戸
* * *
炯斗は、ぐるりと辺りを見回した。
「雰囲気、変わったなぁ」
今いるのは、以前いた街。
不自然で太陽さえ動かなかったそこは、大きく変わっていた。
日が暮れて夕暮れ。
家々は放置されて数年経ったかのように荒れ果てている。
「暗さも相まって怖いんだけど…、ってもやっぱり誰もいないよな」
意識が落ちる時にはもうビビらないと思って来たのに、
――もっとビビったっつの!! ついでに言えばチビるかとも思った!
ぐっと生唾を飲み込んで道のど真ん中から歩き出した。
「街の並びなんか大して覚えてもねぇ…けど、なんか変わった?」
炯斗は以前と同じボタンを同じように地面に置く。
「よーい…ドン!!」
意味もなく全力疾走。
置いたボタンは――――見えてこない。
見えてこない。
「よっしゃああああ!!」
息を切らして立ち止まって、拳を突き上げた。
しかしすぐにくるりと踵を返す。
「ボタン、忘れてた!!」
炯斗が一番忘れているのは、ここが非現実であるということである。