泡沫眼角-ウタカタメカド-
「さて…と」
ループではないとわかった。
夕暮れはどういう意味だかわかりかねるが、暗い赤色からして何か危機感を感じるものがある。
「あんまり時間はなさそうだよな」
自分に冷静に、と言い聞かせているが一人の恐怖と夕暮れの不安感に押しつぶされそうなのが今の状態だ。
せめて今、思考を保っていられるのは、目の前から先へと続く一筋の光のおかげだろう。
“炯眼”──それが炯斗の能力。高い精度で幽霊を視ることが出来、現実世界であれば人か幽霊か簡単に見分けられる。
しかし能力の真髄はそこではない。
死した人間が生前に行った先などに残る魂の痕跡が視えるのだ。
それは彼の目には銀色の光となって映る。
光を辿って、以前一つの事件を解決に導いたこともある。
その光が今、目の前に漂っている。
つまり、ファントムがここを通ったということであり、それを辿れば何かしらファントムに繋がる場所へ行き着く手がかりとなる。
それが今、炯斗の心の支えだった。
ひたすら歩く。
辿っていくと、だんだんと街の景色が変わってきた。
ここへ来て初めての感覚に、少しずつ緊張して手が汗ばんでくる。