泡沫眼角-ウタカタメカド-
ついに、あの日の話が。
炯斗は抜いた力をもう一度入れて、背筋を伸ばす。
「いったん騒ぎが収まったところに乗り込む奇襲作戦。確実に奴らのボスにあって、問い詰めるのが目的だった」
「そのことは…会長さんには?」
「言っていない。言えば、止められるとわかっていた。だが──」
香田は今までの話の中で一番強く、拳を握り、眉間いっぱいに皺を寄せて、絞り出すように言った。
「止めるべきだった…俺も禅在に一矢報いることしか頭になかった。
吉野も含め乗り込むことには成功したが、そこでは待ち伏せされていた。三人はバラバラにされ、勲さんは──…」
耐え難い。悔やみ。
片手で顔を覆い、俯く香田。
「俺と吉野は幽閉され、勲さんがどうなったかは知らされなかった。勲さんを人質に言うことを聞かせようとしたようだが、俺はもうその扱いは散々受けた。
吉野とどうにかこうにか逃げ出して戻った場所には…彼はいなかった…!」
「……」
「会の方には、身元が分からないようにした死体を渡して、三人とも死んだように見せかけたらしい。俺と吉野が戻った時には、文字通り幽霊でも見るように驚かれた。
もちろん、勲さんについて聞かれたが、答えられる言葉は何もなかった。
故に彼は行方不明とされ、会長の治さんが亡くなった今でも、俺が代理として立ち会長の席は空いている」
「…そんな、ことがあったのか」
今、炯斗に言えることはそれだけだった。