泡沫眼角-ウタカタメカド-
走って消えた捜査員の後から、大股でさっきの部屋に戻る。
バン、とドアを開けると鼻歌混じりで片づけをしていた川井がはっと狸翠を見た。

「行くぞ川井!」

「はい、ってどこに?」

呑気な川井は山となったディスクを整える。
それを後目に狸翠は鞄をひっつかむとまたドアを開いた。


「言ってねえで早く来い!」

「は、はい!」


何も言ってくれないまま、また上司に振り回される川井。
慌てて自分の荷物をもって狸の背中を追いかけていった。


そして着いた先は病院。

「ここは…」

「選挙立候補者の黒井。そいつの後ろ盾となっている綾門の秘書にして、今回の被害者でもある谷が入院しているところだ」

それを聞いた川井から色がザアッと引いた。

「え、警部! 今回の被害者とは接触するなって会議で言われたじゃないですか!」


川井の嘆きを狸翠はあっさりスルー。
せかせかと病院の入り口をくぐってしまう。
だが今回ばかりは川井も粘る。


「これは本当に上から怒られますよ?!」

「うるせえなあ…」


狸翠は立ち止まって川井をにらんだ。

「命に別状のないけがで面会謝絶なんて、綾門が政治の圧力かけてるに決まってんじゃねえか」

「いや、だからダメでしょって!」

「んなもん裏を返せば事件に関わっていますって言ってるもんだろ」

「まあそうですけど!」

「だったら、警察の手が届かないって安心してる今が一番狙いどころだろうが」


不適にニヤリと笑う狸翠。
川井の目には、狸翠と朋恵の姿がぴったりと重なって見えた。

あまりに一致するもんで、一度目を疑う。が、間違いはなさそうである。


──娘のやんちゃも父親譲りか…




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