泡沫眼角-ウタカタメカド-
香田が沈んでいたのは決して長い時間ではなかった。
住宅地のど真ん中で不法侵入の上に死体を掘り出しているのだ。
理由はどうあれ長居は無用ということを、乱しても忘れてはいなかった。
顔についた汗泥を拭い去り立ち上がると、香田は炯斗に尋ねる。
「これからどうする気だ?」
「警察に連絡する」
炯斗は下の彼を見つめたまま簡単に答えた。
今の自分たちにとって自殺にも等しい行為を。
「だがそれは」
「わかってるよ。でもこのままにはしておけないし、こいつがここに居ることが禅在のやった犯罪の証明にもなんだろ。
それに…俺の考えてたことにも結論が出たとこ。あとは全部教えてやればいい」
そのまま炯斗は二人分のスコップをもともとあった場所に片づけ始めた。
香田に背中を向けるようにしている炯斗の表情はわからない。
ただ、言葉に所作に、感情が出ないよう押し殺しているのだけははっきりとわかる。
「炯斗」
香田が短く呼びかける。
炯斗は振り向かないまま適当に返事をする。
「こんなことに巻き込んで…すまなかったな」
「……」
炯斗はスコップを仕舞って、ゆっくり振り向いて、下を向いて。
顔ははっきり香田に見せないまま。
「香田さんの所為じゃねえよ。…文句なら、俺の中に入ってるファントムに言うし…」
いろんなことが知らない内にあって、殺人事件の容疑者にされ、夢の世界に落とされて、そんな状況で、入り切っていた力を、炯斗はスッと抜いた。
腕から、手から、肩から。
その代わりに緩んだ表情筋の所為で顔をくしゃくしゃにしながらまっすぐに香田を見つめる。
「たぶんこれは、俺も含めて、ちゃんとケリつけないといけないことだと思うから」