泡沫眼角-ウタカタメカド-
そんな状態でも炯斗は、笑って見せた。
「だから、香田さんが謝ることじゃない。そんなこと、もういいんだよ。」
大丈夫なはずはないのに無理やり笑って見せる小僧に、あの日の面影は重なることはない。
目の前にいる若者は若者で、やはり彼は彼でしかない。
二十歳かそこらの髪を染めた青年は、炯斗だ。
それでも、時折面影が重なるように見えるのは亡霊が彼についているからなのだろう。
亡霊は亡霊。
彼は、違う。
──…何を当たり前のことを、今更…
自分が何ともバカなことをしているように思えて、香田は思わず吹き出した。
「炯斗、なんて顔してんだ。情けない顔だぞ」
「うるせえなっ! 俺にも色々あったんだよ! ほらもう車行くぞ! 犯罪現場にずっといたら捕まるぞ!」
笑われて顔を真っ赤にした炯斗はどしどしと歩いて先に進む。
その後ろについて歩き始めながら香田はもう一度吹き出した。
──さっきの言葉で赦された気になるなんて…なんと単純でバカなんだろうな俺も
二人は屋敷を、骨を後にして進む。
夜の住宅街を抜けていく。