泡沫眼角-ウタカタメカド-

* * *

夜もすっかり更けているこのとき。
朋恵は自分のデスクで居眠りをしていた。

こう捜査本部が立ち上がる事件があると家に帰ってゆっくり休むということもロクにしていられない。
もちろん顔はむくんでくるし肌荒れも出るし、いいことは一つもないがこの仕事に穴をあけるわけにはいかない。

作業をしていると仮眠室を使わないでこうしてデスクなどで夜を明かすこともしばしば。


そんな皆が寝静まっている折の時間。
朋恵の携帯電話がバイブで振動し始めた。
ヴー、ヴーと繰り返すそれを寝ぼけ眼で見る。

──電話…? こんな時間に誰が…


だが着信相手の名前を見た途端、朋恵の目は一気に冴えた。
『日奈山 炯斗』
その名を認めた瞬間、朋恵は隣の机で寝ていた高橋を叩き起こした。


「先輩…なんですか…」

「日奈山からの電話! 今すぐ来て!」


高橋も丸い目をさらに丸くしてすぐに立ち上がった。

まだ携帯が振動しているのを持った手で確認しながら、二人は人気のない自販機のところまできた。

そして声を高橋にも聞こえるようにモードを変えて、通話ボタンを、押した。


「はい、冬沢…」

『もしもし? ともちー?』


間違いない。日奈山の声だ。
それも、いつもの間の抜けた声。


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