泡沫眼角-ウタカタメカド-
「……哀れだ、と言った」
「あんだと?」
今度は確かに聞こえた。
が、聞き逃していい内容ではない。
誰が哀れだと?
そんなに“哀れ”の意味もわかっているわけではないが、侮辱されたことは確実だ。
侮辱されたらやり返す。
落とし前はきっちりつける。
それが裏の人間――いわゆる、ヤクザの掟だ。
手を抜く必要もねぇ、さっさと終わらす!!
ぼんやりと立つフードの男に気付かれないように拳を握る。
軽いフットワークで間合いに踏み込むと、低い姿勢から攻撃を繰り出した。
パシッ……と、呆気なく右手はフードの左手に捕まった。
――こいつ…!!
右手を引こうと力を籠めるが、男の左手はびくともしない。
それどころか、佇まいは話し掛けた先ほどより、少しも変わっていない。
――ヤバイ、
力の差を悟った時には遅かった。
!!
軽い、あまりにも軽い、刺さる音。
一撃。たったそれだけで、ヤクザの男の世界は一変した。