泡沫眼角-ウタカタメカド-
何で警部下の名前で呼び捨てなんですかまさかこの年になっての不倫? 愛人? うわ最低逮捕だたいほ――
「黙らんか!!」
「いっだい!!」
げんこつが川井の脳天にヒットし、川井はうずくまって頭を押さえた。
「全く…こいつは、冬沢朋恵って言ってな俺の娘なんだよ」
「む、娘ぇ!?」
川井はたまげてまた口を開けた。
上でそっくりの視線がぶつかりあっている。
「だからといって職場で下の名前で呼ぶのはやめて欲しいわね」
「じゃあ、狸ジジイってやめてくれないか?」
「嫌よ」
交渉決裂。
高橋はまた話が進まないとため息をついた。
朋恵の父であり、警部の冬沢狸翠(フユサワ リスイ)
年齢的・経験的にもベテラン刑事であり、少しずつ出世して今では警部の階級にある。
若いころは同期の刑事とコンビを組んで“伝説”だと騒がれたりもした。
頭のキレる男であり、そこからとって今は“古狸”と呼ばれることもある。
警視庁に勤務しており、何もかもが朋恵よりも上なのだが、朋恵の切れ味が鈍ったことはない。
狸翠が何をしたわけでもないのに彼を嫌いたがり、何の相談もなく刑事になった朋恵には手を焼いている。
今のように。