泡沫眼角-ウタカタメカド-
「っかは…!」
大きなことをされたわけでもない。
なのに何で……何で、何で!
――こんな苦しいんだよっ!
ヤクザの男は喉を掻き毟った。
それでも首元を緩めても息苦しさは消えない。
酸素が足りない、視界がチカチカする。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
死…、ぬ
「……っ、ぁ」
荒い息を突然止めて、ヤクザは落ちた。
動かなくなったヤクザの手を離して、フードの男は無感情に足元を見つめる。
「恨みはない。不満もない。だが、選ばれた」
生贄として
そう、この男に罪はない。
ただ選ばれたのだ。
貴様が適任だと。
だからこうして死を迎えることになった。
「だから言ったのだ。哀れだと」
強いて言うなれば、暴力団に入っていたというだけの罪で。
――後悔はない。全て予定通り
それなのに、その顔に笑みはない。
むしろ厳格に彩られた。
足を通りに向け、手をフードにかける。
「じゃあな。せめて早く見つかるといいな」
裾を翻して脱ぎ払うと、適当なゴミ箱に捨て去り、仮初めの灯りに染まる街に男は帰り、人混みに消えた。