泡沫眼角-ウタカタメカド-
* * *
男は一人、車に乗り込んだ。
後部座席に身を沈め、胸ポケットの携帯電話を取り出す。
一件、着信がある。
相手の番号を確認してから、待受画面に戻す。
これなら待たせておいても大丈夫そうだ。
男が携帯電話を仕舞ったのを確認して、運転手がエンジンを掛けた。
「どちらへ行かれますか?」
高級車のエンジン音が響き出すと同時に、運転手が聞いていたのだろう、ラジオのニュースが流れ出した。
『――昨日深夜に殺害されたと見られる男性は現場付近を占める暴力団であると断定され――』
ブツッとした音を立て、ラジオは消された。
「失礼しました」
「いや、構わない。……そうだな、とりあえず帰ろう」
「承知しました」
車は運転手の踏み込みに合わせて静かに動き出した。
男は座席にもたれ、過ぎ行く景色を眺める。
小刻みに揺れるその肩を映す窓は、ゆるりと持ち上がった男の口元も、くっきりと映し出していた。