泡沫眼角-ウタカタメカド-
「あー、炯斗」
まだまだ言乃の話を続けそうな炯斗を遮ると、炯斗は不思議そうに狭間を見上げた。
「俺今帰りでさ」
「うん、知ってる」
「昨夜忙しくてほとんど寝てないんだよ」
言うと同時に欠伸を噛み殺す狭間。
よくよく見ればオールバックもいささか崩れてきている。
「んだからさ、寝かせろ」
「えー、」
えー、じゃねぇだろおいと期待した炯斗だったがそれすら答える気力もなさそうで、狭間は立派な門に向かって歩きだした。
「ゆっくり休めよー!」
軽く右手を上げて答え、門の扉に手を掛けるか掛けないかで、
「ちょっと待った!!」
トシオが再び猛スピードで、狭間に駆け寄って何かを差し出した。
「狭間さん! いつものようかんです!」
一瞬ポカンとした狭間は、包みのロゴとトシオを数回見比べると、パッと表情に花が咲いた。
「おぉ!! これは玉利屋の数量限定ようかん!! お前…よく買って来たなぁ!」
「いえ、狭間さんが無類のようかんマニアとは有名ですから!」
女子二人はパッと後ろを振り返ってみると、頭を捻った炯斗がポンと手を叩いた。
「そうだったそうだよ! 奏兄ちゃんあんこのもん好きだよ!」
強力な証言得られた。
間違いないらしい。
「お前…こんな疲れてる俺に好物の差し入れなんて――!」
「狭間さん!」
何故だか狭間は涙目。
トシオもいい笑顔で和菓子屋の袋を掴んでいる。