泡沫眼角-ウタカタメカド-
トシオはなんだかんだと狭間をおだてつつ、彼と一緒に門の中へと入ってしまった。

疲れているせいだ。
そう炯斗は確信する。

「なんだアイツ?」

兄貴をさらりと持っていかれたようで何だか腹がたつ。

「朝駅前にいたのはようかんの為だったんだね」

【それはそうと、私たちが此処に連れて来られたのはどうしてだったのでしょう?】

久しぶりに言乃が携帯を出した。

会話のハンデの為に、自分が口を出す必要性がなければ、基本的に聞き手に徹するせいだ。

携帯の電池の節約にもなるし、何より初対面の相手を困らせたくないという彼女なりの配慮だ。


「アイツ、何も言わずにことのんと恵をここまで連れてきたのか?」

炯斗がびっくりしたように言った。

ここは歩いて来れるとはいえ、駅から少し離れている。
おまけに、言乃たちが今朝出会った大学の最寄りからはなかなかに時間がかかる。

そんなところに連れてきただなんて……


「何か渡したいものがあるんだって」

初対面の恵にではない。
と、いうことは、渡す相手とはただひとりしかいない。


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