泡沫眼角-ウタカタメカド-
男衆が門の中へ消え、不思議だなぁという表情を浮かべ扉を閉めて彼もまた中へ消えた。
残された二人は、ゆっくり、顔を見合わせた。
「今の、見た?」
【あ明らかに、、かたぎではありませんでしたね】
言乃も動揺しているのか、文字を連続で打ってしまっている。
「かたぎじゃないって、つまりは危ない人のことでしょ?」
恵は震えた、ほぼ囁き声で喋るので、言乃も顔を近づけて聞くのがやっと。
「どうしよう!!」
【声が高いです】
「十分小さいよ!!」
無言の言乃に勝てる訳がない。
が、それを差し引いても二人とも、ビビりすぎである。
【でも、でも、確証はありませんよ? 二人も入ってしまった訳ですし、ね】
「そそ、そうだよね! ――!!」
視線を横に流してピシッと、突然恵が動きを止めた。
目だけは飛び出さんばかりに開かれて、言乃の不安を煽る。
【恵ちゃん?】
「ことのん……アレ…見て……」
「?」
恵の示す先――それは炯斗たちが消えていった門の端。
本来、表札があるべきその位置には――表札であることには変わりはないのだろうが――長々しい名前が飾られていた。
大跳真組系比津次会
もはや何と読んでみたらいいのかわからない。
しかし、その漢文のようなたった9文字の羅列は、二人を震撼させるには十分過ぎる名前だった。