泡沫眼角-ウタカタメカド-
「ごめんごめん、お待たせー、って二人ともどしたん?」
寝起きスタイル髪型だけ完璧バージョンの炯斗は、震え上がっている言乃と恵を見て首を傾げた。
「なぁ?」
炯斗が一歩、踏み出すと
「ちょ、来ないで!」
言乃を連れ恵がだだあっと三歩ほど後退る。
炯斗の行き場のない手だけが空を切った。
「……俺、そんなに嫌われてたのか!!」
手から伝わる空しさは溢れる涙に変わりアスファルトにドバドバ。
「待てっ……ゼイゼイ…ひな、や、まっ! 返して……ん?」
後ろから走ってきたトシオの目には突っ伏す炯斗と固く手を取り合った言乃と恵。
これは、もしや――!
トシオの小さな目に光が見えて、彼の口端が上がった。
「ふ、フフフ!! 残念だったね日奈山!」
これで敵は消えた。
トシオは揚々と二人に向かって足を持ち上げ――
「ことのんはぼくがぁっ――ふブゥ!!」
――降りる前に足首を掴んで後ろに引かれた。
誰にって、もちろん側で突っ伏していた敵に。
「勝手に振られた設定にすんじゃねぇよ」
「痛いじゃないか!」
可哀想なことに体重が災いしたのか、トシオの鼻の頭は真っ赤に擦りきれていた。
しかし敵はお構い無し。
「ったりめーだ! また俺のことホイホイ呼び捨てにしやがって! おまけに目の前で盗ろうとしてんじゃねーよ!」