泡沫眼角-ウタカタメカド-
狸と捜査
* * *
ある刑事は車を運転していた。
彼の名前は川井宗悟(カワイ ソウゴ)。
三十をやや越えて位は警部補。
悪い方ではない。
むしろノンキャリアであることを考えると、かなり高い方である。
名前をもじって“かわいそう”とかなんとか言う奴がいるが、そんなのは嘘だ。
さっき女にまで舐められてとか言うなよ。あの女が変なんだ。
「おい、」
“暴れ狸”とまで言われたりする、隣の冬沢警部。
この人と組めた俺は幸運なんだ。
「何をぶつぶつ言ってる?」
「あ、いえ。何でもありません」
「朋恵のことなら気にするな。あいつは誰にでもああだ」
それは大いに問題があるのでは?
ってか上司にはたぶん、俺と警部だけかと。
そんなこと、ふいと外を見ている狸に言えるわけもなく。
言葉を飲み込んだところで、目的の建物が見えてきた。
近くに車を停めて、二人は建物を見上げた。
古びたアパート。
被害者・金子鉄雄の自宅だ。
「さて、行きますか」
中は既に鑑識が家宅捜索を始めている。
二人は大家に軽い挨拶をすると、部屋に向かった。