泡沫眼角-ウタカタメカド-
定番の白い手袋をはめて、部屋に足を踏み入れた。
まずざっと見回して、川井は呟く。
「……普通の部屋ッスね」
鑑識が大勢動き回っている以外は。
玄関を入ってすぐダイニングキッチン、奥に寝室、そして水回りといった、一人暮らしには十分な広さ。
しかし、ゴミを捨て忘れたり、小物が多すぎて雑多な印象が拭えない。
「どうも、警部。まだ始めたばかりなので、あまり荒らさないでくださいよ」
「んな、俺が邪魔しに来てるみたいな言い方すんなよ」
鑑識の一人に言われて狸翠は苦笑した。
「今のところ、指紋は本人のものくらいしか出てません」
「どうも」
と、それだけ返すとずんずんと奥へ進んでいってしまう。
まだメモを取っていた川井は慌てて声をかける。
「ちょ、待ってくださいよ!」
「置いてくぞ」
酷い。しかし決して俺は可哀想ではない。
さっさとメモを取り終え、背中を追いかけると、水回りの脱衣所辺りに立っていた。
かと思うと踵を返し、寝室で何かをし、また元の部屋に戻った。
何なんすかもう…と言いたいのをこらえてついていく川井。
狸翠はもう一度、雑多な部屋を見回すと、おもむろに近くにあった貯金箱を手に取った。
「?」
川井が首を傾げる。と同時に狸翠はそれを床にたたきつけた。