泡沫眼角-ウタカタメカド-
* * *

「さて、いらっしゃい」

朋恵はにっこり笑いながら車から降りて言った。

笑ってない。
……怖い。
笑顔に暖かみが何処にもないよともちー。

震えるどころか完全に凍らされた炯斗はかくかくしながら降りた。

暗い気持ちで目の前の建物を見上げると、体温がまた下がる。


先にある建物、それは警察署だった。


どうしよどうしよ、俺こんなところには被害者以外では来ないって決めてたのにぃ……。








炯斗が警察署にくることになった理由――それはしばらく前の時間に遡る。





『あれ、あんたたちどうしてこんなところにいるのよ?』

言乃が帰るといって恵といなくなってすぐ、寂しく立つ男二人のところに朋恵と高橋が現れた。

『ヤッホー、高橋さん、ともちー! 久しぶり!』

『その呼び方今すぐ忘れなさい!』

『ぎゃぁぁーー!!』

恒例の、朋恵のヒールが炯斗へ炸裂。
実は、署内でもこの攻撃を受ける人間は少ない。
また以前の始末書云々を思い出して不機嫌になりかける朋恵をどうにか押しとどめ、高橋は尋ねた。

『君たちはどうしてここにいるんだい?』

少し身構えているのは、炯斗たちが事件に首を突っ込んだことがあるからだ。
だが炯斗はこともなげに後ろの建物を指差し、

『そこ、俺ん家だから』

『ああ、なるほど。そちらの君は?』

『え? あ、えーと……その…』

突然、トシオがしどろもどろとし始める。

『もしかして、この組に何か関係があるのかな?』

『ヒッ! いいえいえいえ、そんなことはっ』

わかりやすすぎる。
炯斗と高橋は同時に思った。

そして、同時に朋恵の目がギラリと光ったのを炯斗は見逃さなかった。


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