泡沫眼角-ウタカタメカド-
プンと怒った高橋に言葉でがっちり止められ、しぶしぶ席を離れることを思いとどまる。
狸翠の報告は続く。
「そして、先ほどそれだけではないと言ったことだが――」
ああ、もうだから…勿体つけるのやめなさいよ
「――被害者宅から妙な書類が多数見つかった」
妙なって、見つかれば何でも妙ってのよ
んなことわかるから早く内容を言いなさいよ
「書類は金子本人が作成したもののよう。内容は金子所属の暴力団、大跳真組系比津次会(オオトマクミケイ ヒツジカイ)について。
そしてその宛先は――」
いい加減に焦らすのやめたらどうなのよ!!
「せ、先輩…」
隣で高橋が弱々しい声で朋恵を呼んだ。
何よ、とギラリ睨むと、彼は大きく首を横に振った。
それ以外、聞き入って皆静かなのを見ると、狸翠はニヤリと口端を持ち上げた。
「なんと、同じ大跳真組系にして隣のシマで敵対関係にある、大跳真組系禅在組(オオトマクミケイ ゼンザイグミ)だ。
そして、その逆を示す書類も見つかっている」
朋恵と高橋も、ハッとして狸翠を見た。
何か…これから大変なことを言われる。
朋恵はそれを狸翠の勝ち誇った顔に、この演説を大声で邪魔したい気持ちに悟った。
「――つまり金子は、比津次会と禅在組の両方に入り込む、二重スパイだ」
――ああほら、私たちが日奈山に慰めたこと、無駄になったじゃないの
その会議は収集がつかなくなり、しばらく中断された。